Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

  “氷雨と仔ギツネ”
 


今日は朝から雨催い。
それも濡らした端から凍りそうなほどもの冷たい氷雨で。
時折 庇を強く叩くほどもの雨脚が立っては、
家人らの注意を外へと向けさせる。

 「雪になるほどではない寒さだからという雨だろうがの。」

鬱陶しいわ冷たいわ、どうにも陰気でいけねぇなと、
広間の中ほど、炭櫃の傍へと陣取っていたお館様が、
どこか恨めしそうな眼差しを向けた先。
暗くはないが陽も射さない、そんな間口へ見えるのは、
しとしと降りしきる雨を受け、
寒さに萎縮し、うなだれて見える庭とそれから。
濡れ縁にちょこり、座ったまんまの小さな背中。
ふかふかのお尻尾が、時々思い出したようにゆらりしたりと泳ぎはするが、

 「くうちゃん?」

そんなトコに居たら寒いでしょうにと、
干し芋やカワハギの干したのなどなど、
今時で言えば“お茶受け”を庫裏から運んで来たセナくんがお声をかければ、

 「う〜〜〜。」

ふゆゆ〜と どこか元気がないお返事をするばかり。
???と小首をかしげるセナの肩の向こうから、

 「くう? こっちへ来な。」

蛭魔も見かねたか声をかけて来、
立ち上がった小さな坊やは、素直にぽてぽてと歩んで来たものの。

 「どした? んん?」

日頃のあの弾けるようなお元気ではないのが、何だか心配。
お膝へお座りと迎えて差し上げ、しょんもり俯くお顔を覗き込めば、
大きな眸もどこか曇っての下を向き、
小さいがみずみずしい緋色のお口も重たげで。
細い質の髪、いつものように結っているそれもまた、
力なく垂れてしょんぼりと寂しそう。
あまりに元気がないものだからと、
温かな真綿を薄く入れた袷
あわせをまとったお館様、
その腕を仔ギツネ坊やの身へ、環になるようにとふんわり回されて。

 「何か困っておるようだが?」
 「〜〜〜。」

丸ぁるい頭がますます前へと傾いたところを見ると、
どしよ・どしたらと考えあぐねていることを、
これでも内緒にしていたらしく。

  ―― ども しないもの。
      嘘だな。

抱っこの腕をキュッと縮めて、
小さな小さな仔ギツネくんをひょいと揺すって抱え直し、

 「何の匂いがするね。」
 「………いちゃーぼし。」
 「いつものくうなら、あんよをバタバタさせてるところだ。」

大好きなアジの一夜干しも持って来てあったのに、
その香ばしい匂いがしていても、小さな肩は降りたまんまだったから。
こりゃあ重症だわいと気遣って差し上げれば、

 「〜〜〜。」

ふにゅいとばかり、そのお顔がますますしょげたそれとなり。
髪の間から覗くようにして立っていた、
やわやわなお耳もまた、ヘしょり・くたりと寝てしまう始末。
日頃あれほど わんぱく無邪気な坊やなだけに、

 「くうちゃん?」

炭櫃の炭を確かめていたセナが、
ハッとして火箸を取り落としたほどの、あまりに痛々しい消沈ぶり。

 「話してみぬか?」

それとも俺らじゃ解決出来ぬか?
こちら様もまた、日頃の…挑発的で傲岸な彼しか知らないだろう、
宮中の公達がこれを見たなら眸を疑うだろうほど、
穏やかで優しいお顔になっての案じておいで。
そんな術師殿の宥めすかすお声に宥められ、
小さな仔ギツネくん、気が重そうなまま、
それでもようよう お口を開いて。


  …あーね? うっとね?





  ◇  ◇  ◇



少し早い目に夕餉を終えて、
すっかり陽が落ち、燈台に火が灯される。
依然として止まない氷雨の雨音が、しとしとさあさあ響く中。
暖かい炭櫃を囲んで家人らが、
あれこれ和やかに語らっているところへと。
枯れ葉を踏むよなかすかな音がし、

 《 葛の葉様。お迎えに参りました。》

天世界の宮殿からのお迎え、
くうちゃんのお世話係の青年天狐が、
広間の手前、庭先に立った気配がして。

 「くちゅばvv」

おやや、いつもだと眠そうにしているか、
そうでないなら“まだ帰らない”と愚図るか するものが。
待ってましたと言わんばかり、勢い良く立って来た皇子様。
天世界へいちいち戻るのがいやなんじゃあないけれど、
こちらの方が楽しいのにと、言わずとも語られる態度が今宵は、
全く見受けられないものだから。

 《 ???》

どうしたことかと小首を傾げた朽葉殿へ、
ぱたた・とたとた、駆け寄った仔ギツネさん。
よくよく見やれば…何か包みを持っておられる。

 《 それは?》
 「たーも様、おみやげvv」

にゃはと笑うお顔には、今朝方こちらの皆様を案じさせた陰もなく。
そんな彼を見送る人々もまた、くすすと楽しげに微笑っておいで。
そうしてそして、
その包みを父上様に渡せばいいと言われた仔ギツネさん、
じゃあね、ありがとねとご機嫌になってのお帰りとなった。
厚手の絹の錦にくるんだそれは、
くうちゃんの“ぐう”より大きい土ショウガと、それから、
こちらはくうちゃんも大好きな、蜂蜜が入ったネジ蓋の壷と。


  あーね? 雨々こんこ してるでしょ?
  たーも様が出掛けにコンコンてしてたから、
  そいで ずーと、雨々こんこなのかもなの。


くうちゃんの本当の父上にあたる玉藻様。
天世界で“神様のお使い”である天狐を束ねておいでの、
そりゃあ大変な地位にある御方だが、
そんな御方が今朝方は、どこか気怠げになさっておいで。
いつもはくうちゃんへ、とびっきり優しい笑顔を見せて下さっているものが。
今日も元気で遊んでおいでと、送り出して下さるものが。
目許が重そうで、お声には力もなくて。
時々こんこんと咳までなさっていたのを聞いて。


  そしたら、都は 雨がしとしとでしょお?
  もしかして もしかしたらば、
  たーも様がこんこんて してらしたから雨なのかなぁ。
  お元気なさそで、つらそうだったの。
  くうはどうしたらいいのかなぁ?


心優しい仔ギツネさん。
そんなこんなで憂鬱そうにしていたのだと、
お館様に相談したらば。
金の髪したお館様、任せなとお胸を叩いて見せて。
そいでねあのね? おとと様に言ってショーガを、
咒でもって叩き起こしたあぎょんさんを呼んではちみつを、
手元へ集めて下さって。

 『これであめ湯を作って飲みゃあ、一発で治るから。』

そうさな、落ち着くまでは くうも傍に居てやんな。
にっぱし微笑って教えてくれて。


  だからあのね? 早く帰ろ?


そんなお話をして下さった皇子様に、
朽葉さんは驚いて…それから。
殊の外 優しそうに目許を和ませると。
そうですね、大急ぎで戻りましょうねと、
お空を流れる星より速くと、
氷雨の幕さえ突っ切って、特別の咒で翔ってったそうですよvv






  〜Fine〜  08.01.30.〜1.31.


  *途中から何だか絵本みたいな語り口調になってしまうのが、
   くうちゃんシリーズの不思議なところでございまして。
(う〜ん)
   いきなりの“爆弾低気圧”以降、底冷えが続いておりますね。
   これこそが平年並の寒さだそうですが、
   極端から極端へ走られてもなあ…。
   お風邪やインフルを拾われる方も多いとか。
   どうか皆様お大事に。

  めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv お気軽にvv

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